紗羅餐ミッドランドスクエア店

 

 

 

清閑之歓 ―大地にいだかれて―

 

 2007年3月、名古屋駅の正面に新たなランドマークとして「ミッドランドスクエア」がオープンしました。地上47階建て、高さ247メートルのオフィイス棟と5層分の吹抜け空間を内包した商業棟が併設された複合ビルです。最先端技術で造られたこの超高層建築は、名古屋駅前の新しい顔となり、ますます発展してゆく名古屋駅周辺の象徴的な場所になると思います。

 中部国際空港店につづき、紗羅餐にとって2軒目となる支店は、そのミッドランドスクエア商業棟4階、「ダイニングステージ」とよばれるレストラン街の一画にあります。

 今回のお店を計画するにあたり、紗羅餐さんからいただいた要望の中で一番大きなテーマは「すべてを見せる」でした。本物であること、手作りであることにこだわりつづける紗羅餐さんにとって、蕎麦を引くところ、蕎麦を打つところ、蕎麦を湯がくところ。そして、できたての蕎麦をすぐに食べていただくこと。

 紗羅餐さんがもっとも大事にしているこの思いを直接見てもらい、蕎麦の本当のおいしさを楽しんでもらえる店にしたいということでした。

 そこで、今回のお店は、すべての作業を見てもらえる台所空間をイメージしました。構成としては、オープンキッチンを中心にカウンター席がキッチンを囲み、テーブル席、個室、蕎麦打ち場がその周囲に並べられ、キッチンや蕎麦打ち場がどこからでも楽しめるような配置としました。

 また、紗羅餐さんが大事にしている「本物であること」「手作りであること」を表現するために、本物の土を一段一段突き固めて積み上げてゆく版築(はんちく)工法の壁で、台所空間をやわらかく包み込むことにしました。

 しかし、この版築壁を造り上げるまでには、じつに多くの問題を乗り越える必要がありました。その多くの問題をひとつひとつ解決して行くために、熱意をもって真剣に取り組んでくれた庭師さん達と、彼らの熱気に応え、支えてくれた多くの工事関係者の人間力によって、やっと完成を見ることができました。これは、まさに熱意と思いが詰まった「人間の壁」となりました。

 最先端技術で造られた超高層建築の中にありながら、ローテクではあっても、人のぬくもりが感じられる大地の壁にいだかれ、ひと時の安らぎと心のふれあいを楽しんでいただける場となることを願っています。

※版築施工:庭職 一景